パーティーゲームサイト mawashite.com で、執筆時点 (2026-08-04) で 10 本のゲームに名前をつけてきました。その中でいちばんヒヤッとした学びは技術ではなく商標でした。一般名称だと思っていた言葉が、調べてみると登録商標だった——それはゲームのジャンル名でも、お題に入れる日常語でも起きています。
そこで、新しいゲーム名を決めるたびに J-PlatPat という無料の商標検索サービスで称呼 (読み) をセルフチェックする手順を、ゲームを出すときの決まった手順に組み込みました。ただ、このセルフチェックで分かるのは「称呼 (音) が同じ登録があるかどうか」までです。外観 (見た目) や観念 (意味) の類似は拾えませんし、一般名称化のような専門的な判断もできません。だからこそ、自分で白黒つけないラインを先に決めておき、そこから先は専門家に渡す、という運用にしています。
先に断っておくと、これは弁理士による商標調査の代替ではありません。個人開発の初期に明らかな地雷を踏まないための最低限のセルフチェックであり、この記事自体も法的な助言ではなく、いち開発者の運用記録です。扱うのも他人の商標を踏まないためのセルフチェックだけで、自分の名前を商標として出願すべきかという話や、ゲームのルールを参考にしてよいかという著作権の論点はここでは扱いません。この記事は、プロダクトに名前をつけて公開している (またはこれから公開する) 個人開発者向けです。
きっかけ: 「ワードウルフ」を調べたら登録があった
ひとりだけ違うワードを持つ人を探すゲーム——僕ははぐれワードという名前で出しています——を作るとき、当初は「ワードウルフ」をジャンルの一般名称として使えるつもりでいました。J-PlatPat で調べると、開発時 (2026 年 7 月) に確認した時点で、「ワードウルフ」には第 28 類 (遊戯用具) の商標登録がありました。トランプや人狼のような一般名称だと思い込んでいた言葉に、権利者がいたわけです。
このとき決めた方針は 2 つです。1 つは、ゲームのタイトルには他社の商標を使わないこと。もう 1 つは、紹介文や SEO の文言でも他社の商標を自分のゲームの説明に使わないことです。「〇〇風」「〇〇系」と書けば検索には有利でも、他人の商標で集客する構図になってしまいます。代わりに「ひとりだけ違うワードを持つ人を探すゲーム」のような記述的なロングテールで書く。検索流入の立ち上がりは遅くなりますが、権利面で誰にも借りがない状態は、個人開発の精神衛生にずっと効きます。
なぜここまで気にするかというと、名前の事故は相手側から来るからです。警告書が届く、アプリストアや検索エンジンの権利侵害通報で公開が止まる——どれも実際に起こりうる話で、起きてから直すと URL・OGP・紹介動画・検索インデックスと、名前を含む資産を全部道連れにします。名前は最初にしか安く直せません。
セルフチェックの手順 (J-PlatPat の実際の画面で)
J-PlatPat は特許庁関連の無料サービスで、ログイン不要です。初回は画面に慣れるのに 30 分ほど見てください。2 回目からは 1 タイトル数分で回ります。
- J-PlatPat を開き、上部メニューの「商標」から「商標検索」を選ぶ
- 検索対象種別は「出願・登録情報」のまま、検索項目「称呼 (類似検索)」の欄に、名前の読みをカタカナで入れる (「まわして」なら「マワシテ」)。英字や造語で読みが複数ありうる名前は、考えられる読みの数だけ検索する
- 区分で絞る場合は第 9 類 (プログラム) と第 41 類 (娯楽の提供) を必須に、第 28 類 (遊戯用具・おもちゃ) も見る。「Web アプリだから 9 類だけ」が罠で、ゲームの名前の資産は「物としてのゲーム」の 28 類に蓄積しています (自分の分野の名前がどの区分に溜まっているかを考えて 1 つ足す、が一般形です)。なお厳密には権利の範囲は区分そのものではなく中の指定商品・役務で決まるので、この運用は精度より取りこぼしのなさを優先して粗く見るやり方です
- ヒットが出たらステータスを必ず見る。「出願中」は、まだ登録でなくても後から登録されうるので当たり扱いにします。同一称呼の登録が対象区分にあれば考えずに改名。類似称呼 (長音・促音の揺れなど) は内容を見て判断ですが、既定値は「迷ったら使わない」——名前には既に愛着があるので、判断は必ず自分に甘くなります
- ヒットなしは「音が同じ登録がなかった」以上の意味を持ちません。仕上げに普通のウェブ検索で、同ジャンルに同名・類似名のゲームが実在しないかを見てください。登録がなくても、既に広く知られている名前と紛らわしい表示は別の法律で問題になりえます。名前の話は商標法だけで閉じていません
- 検索日・称呼・区分・ヒット件数・判定を記録する (僕は各ゲームの開発記録として残しています)。「いつ調べて 0 件だった」という事実自体が資産になります。何らかの事情でまだ検索できていない名前は、合否を推測せず「未確認」のまま持ち越します
このチェックで「まわして」というサービス名も、「きもちバレ」(せりふに秘密の感情を込めて言い、他の人がその感情を当てるゲームです。称呼 キモチバレ) や「知ったかグルメ」(食べたことのない料理について知っているふりで語るゲームです。称呼 シッタカグルメ) などのタイトルも、それぞれ確認時点でヒット 0 件を見てから出しています。
お題の中身にも商標は潜んでいる
タイトルだけ見ていれば安全、というわけではありませんでした。うちのお題デッキには 2 つの型があります。「逆さ」+「スイカ」+「祭り」のような日常語の組み合わせ生成は、実在の固有名詞が原理的に入りにくい型です。危ないのはもう 1 つの、語をそのまま出す型——単語がそのままお題になるので、商標がお題そのものになりえます。
実際、あそびを列挙するデッキは、実在物を想起させる語がないかを AI にレビュー役として演じさせて確認していて、そのレビューで「フリスビー」が商標として登録された経緯のある語として検出されました。差し替え候補に考えた「フラフープ」も同系の商標リスクで避けています。権利の現況や一般名称化の成否は自分で判定しないと決めているので (後述)、判定せずに両方落とした、というのが正確なところです。
日常語のつもりの言葉でも、こうして引っかかります。以来、デッキの中身にも「商標・実在の作品や人物を直接想起させる語は落とす」というレビューを通しています。
自分で判定しないラインを決めておく
セルフチェックで一番大事なのは、自分で白黒つけないラインを先に決めておくことだと思っています。僕が自分では判定しないと決めているのは、次の 3 つです。
- 「この商標はもう一般名称化しているのでは?」を自分で判定しない。一般名称化の成否は裁判で争われる水準の論点で、個人開発者が独自判断で踏む価値がありません。迷ったら使わない・言い換える
- 称呼検索は外観 (ロゴの見た目) と観念 (意味の類似) を拾えない。セルフチェックで分かるのは「音が同じか近い登録があるか」までです。ここが専門家との差だと理解した上で使います
- 相談先は場面で変わります。事前の調査や出願は弁理士、もし先方から連絡が来る事態になったら、そこからは紛争対応なので弁護士。慌てないために、この分岐だけ頭に入れておきます
まとめ: リリース前の数分でできること
ゲーム名を決めたら、J-PlatPat の商標検索で称呼をカタカナにして引き、第 9・41・28 類あたりを粗く見る。出願中も当たり扱い、迷ったら使わない、仕上げにウェブ検索、記録を残す。これが執筆時点 (2026-08-04) で 10 本の量産で固まった運用です。
ただ、この手順が守ってくれるのは称呼 (音) が同じ登録の有無だけで、外観 (ロゴの見た目) や観念 (意味の類似) の類似は対象外のまま残ります。名前をつけるものを作っているなら、リリース前に一度だけ、特許情報プラットフォームに寄ってみてください。