「じゃあ次の人、面白エピソードつきで自己紹介ね」——この一言で胃のあたりが重くなるタイプの人向けの記事です。アイスブレイクの記事はたいてい幹事や進行役に向けて書かれていますが、これは指名される側、つまり参加者のために書きます。僕はパーティーゲームサイト「まわして」を作っていて、「滑り」がどういう条件で発生するかを、お題づくりの都合で年中考えています。その分解を、参加者の立ち回りに落とします。

順番が来る前にできる、滑らない立ち回り

先に結論から。滑らない立ち回りとは、面白さを鍛えることではなく、「面白いことを言う」という仕事を引き受けない動き方です。会の時間軸に沿うとこうなります。

  1. 席についたら隣の人ひとりに、一問だけ聞く「どこから来たんですか?」だけでいい。全員に話しかける必要はない。聞く側に回っている間、滑る出番は来ない
  2. 順番が近づいたら選べるなら早い手番で済ませる後になるほど直前の人のウケが基準値になる。席が選べるなら進行役の近く (最初の数人に入りやすい)。選べない場では下の「降りる定型」で期待値を下げる
  3. 自分の番目標を「笑わせる」から「覚えてもらう」に下げる名前 + 出身 + 小さい近況 1 個 (「最近◯◯を始めた」「今日はじめて△△に来た」) で十分。アイスブレイクの実務的なゴールは名前と顔の一致で、笑いは要件に入っていない
  4. 番が終わったらリアクション役に就くよく笑いよく相づちを打つ人は、発言者より場に感謝されるのに、滑るリスクがない

もうひとつ、「面白エピソードつきで」のように笑いを名指しで指定されたときのために、降りる定型を 1 つ持っておいてください。「面白い話は本当に在庫がないので、いちばん平和な話をします」——先に期待値をゼロに宣言してから普通の話をすると、笑いの採点そのものが始まりません。直前の人が大ウケした直後にも同じ手が使えます。降りる宣言は逃げではなく、場への正直な申告なので、むしろ感じよく通ります。

この立ち回りで自己紹介パートはしのげます。問題は、そのあとに「全員参加の遊び」が始まったときです。遊びの種類によっては、この立ち回りでは逃げ切れません。そこで次に、怖さの中身を分解します。

なぜアイスブレイクで滑るのが怖いのか?

怖さの正体は、3 つの条件が同時にそろうことです。その場で考える (即興)ひとりだけが見られる (単独注目)ウケたかどうかが結果として返ってくる (笑いの採点)。「滑る」という現象は、この 3 つがそろったときにだけ発生します。

自己紹介で面白エピソードを求められるのがきついのは、3 条件が全部そろった大喜利になっているからです。逆に、ただの雑談が怖くないのは採点がないから。台本のある発表が (緊張はしても) 滑らないのは即興がないからです。だから対処は「面白い人になる」ではなく、3 条件のどれかを外すこと。前の章の立ち回りは、それを自分の動きで外す方法でした。ここから先は、遊びの側が外してくれる形の話です。

大喜利型の遊びと、構造が笑いを作る遊びの見分け方

見分ける質問はひとつだけです。笑いが起きた瞬間、みんなはどこを見ているか

発言した人の顔を見ているなら、それは大喜利型です。面白さは個人の技量から出ていて、技量が届かなかった人の番では滑りが発生します。一方、画面や開票結果を見ているなら構造型です。面白さはお題と結果の組み合わせから出ていて、参加者は笑いの供給者ではなく、観客のまま参加できます。

大喜利型が悪いわけではありません。得意な人には見せ場になります。事故が起きるのは、初対面の場でそれを全員に均等に課したときです。

始まる前に判定したいときは、ルール説明の段階でこう見分けられます。ひとりずつ順番に何かを言う・やるルールなら大喜利型寄り、全員が同時に手を動かす (タップする・書く・投票する) ルールなら構造型寄り。どちら型かが分かれば、心の準備の量をそこで決められます。

構造型のゲームでは、何が起きても「滑り」にならない

構造型の実物を 2 本、作者として設計の中身つきで挙げます。どちらもスマホ 1 台・無料で、URL を開けばその場で始まります。

せーのドンは、「キャンプの設営でやりたい担当は?」のような 4 択に、自分の答えと「みんなの最多はどれか」の予想をこっそりタップして、全員ぶんそろったら一斉開票するゲームです (1 ゲーム約 8〜10 分・3〜8 人)。1 人がやることはタップ 2 回で、気の利いた発言をする場面がそもそもありません。

開票の直前に全員で「せーの!」と自分の答えを声に出す一拍はありますが、全員同時なので誰の声も単独では聞こえません (画面にも「小さい声でも大丈夫」と出ます)。笑いは「え、多数派そっち!?」という開票結果から出ます。

点になるのは、最多の予想を当てたとき (+2 点) と、全員の答えが一致したラウンド (全員に +1 点) だけ。自分の答えそのものは点になりません。多数派に合わせると得をする設計にすると全員が無難な答えに寄ってしまうので、わざとそうしてあります。つまり、正直に選んだ珍しい答えは損にならず、開票画面で名指しされても点は動かず、話のきっかけとして拾われるだけです。

せーのドン紹介ページへ →みんなの答えを、当てにいく。3〜8人6人で約15分スマホ1台

きもちバレは、場が温まった終盤に出す、注目に耐える体力がもう 1 段ある人向けの 1 本です。無理そうなら、せーのドンだけ覚えて帰ってください。「その皿と、目が合った気がする」のような決まったセリフに、指定された秘密の「きもち」を込めて言い、聞いていた全員がどのきもちだったかを当てるゲームです。

ひとりだけが見られる時間はありますが、セリフときもちの両方をゲームが指定するので、即興がゼロ。ウケなくても、笑われているのは自分の言葉ではなくお題のセリフです。採点されるのは面白さではなく「きもちが伝わったか」で、演技は 1 回 10〜20 秒、時間内なら言い直しもできます。棒読みになったらなったで「どのきもちか分からない!」という別の盛り上がりが起きる——そうなるように作りました。

きもちバレ紹介ページへ →その一言に、きもちを込めて。3〜8人6人で約30分スマホ1台

2 本の共通点は、3 条件のうち少なくとも即興を構造で外していることです。せーのドンは、答えている最中の単独注目 (発言の義務) と笑いの採点も外しています。きもちバレは注目こそ残りますが、採点の的が「面白さ」から「伝達」にずれているので、滑りという概念が成立しません。ただし、人前でひとりで声を出すこと自体がきついタイプには、この理屈は効きません。その場合きもちバレは適用外で、無理に使う必要はありません (そのタイプ向けの選び方は、まとめに置いたリンク先が専門です)。

遊びを選べない参加者でも、提案はできる

先に条件をひとつ。この 2 本が成立するのは 3〜8 人の輪です。15 人の飲み会や 30 人の研修全体に向かって提案すると、開いた瞬間に人数で詰まって、別の形で滑ります。使いどころは、少人数の会か、大人数が 4〜6 人の卓に分かれている場面だけと覚えてください。

いちばん安全な提案ルートは、その場で声を上げることではありません。会の前に、幹事へ URL を送っておくことです。「こういうのがあるらしいですよ」の一文なら、笑いも度胸も要らず、採用の判断は幹事の仕事になり、当日のあなたは観客席にいられます。職場のように力学のある場ほど、このルートが効きます。

その場で出すなら、全体ではなく同じ卓の数人に「大喜利じゃなくて、タップして開票するだけのやつがあるよ」で足ります。「じゃあ君が仕切って」と返ってきても大丈夫なようにできていて、ルール説明も手番の管理も画面が持つので、返す言葉は「開くだけでいいらしいよ」で済みます。無料でインストールも要らないので、提案が流れても失うものがありません。

まとめ: アイスブレイクで滑る怖さは、構造で消す

滑る怖さは性格の問題ではなく、即興・単独注目・笑いの採点という 3 条件の重なりです。自己紹介パートは立ち回り (質問側・早い手番・覚えてもらう目標・リアクション役) で条件を外し、遊びのパートでは「笑いが起きたときみんながどこを見ているか」で大喜利型と構造型を見分ける。構造型なら、あなたは面白いことを言わないまま、ちゃんと場の一員になれます。

ウケる以前に、話すこと自体に気が重いなら無言やパスで参加できるゲームの選び方のほうがフィットします。逆に、進行やゲーム選びを任される側になったら、場を温める順番まで含めて初対面向けのゲームの選び方にまとめてあります。

盛り上げる保証はできませんが、滑る条件はもう分かっているので外せます。次の顔合わせでは、面白いことを言わずに生き延びてください。